45:08
42.3 km
4286 m
硫黄尾根〜雪が少なくてヤブとガレ場だらけだった件〜
槍ヶ岳・穂高岳・上高地 (長野, 岐阜, 富山)
2023.05.02(火) 4 DAYS
19歳のとき、GWに初めての積雪期バリエーションとして槍ヶ岳北鎌尾根登った。その時に異様な姿で右手に見えた硫黄尾根。ゴジラの背のような岩峰郡に強い憧れを抱いた。 いつか、硫黄尾根を登りたい。 でも、七倉まで車でアプローチして、硫黄尾根登って新穂高温泉や上高地に抜けたら、車を停めた七倉までぐるりと公共交通機関を使って戻るのがめんどくさい。ならば、西鎌尾根に抜けたら野口五郎岳をぐるりと縦走してブナ立尾根を降りて七倉に戻れば良いではないか。 よし、そうしよう。 調べたけど、七倉まで戻るのに北鎌尾根を降りた人がいるという噂があるらしいけど、野口五郎岳経由はない。 そりゃそうだろ。 硫黄尾根だけでも高いアルパイン力が求められ、躊躇されるのに、ぐるりと野口五郎岳回って七倉まで戻るとなるとかなりの体力、そして耐力が必要である。 そこで、最近よくご一緒する二人に、 「今年のGWは硫黄尾根に登ろうではないか」 「西鎌尾根から野口五郎岳回れば色んな角度から硫黄尾根を眺められるから、新穂高温泉方面に下るよりは周回して戻ったほうが充実した山行になるよ」 と誘ったところ快諾してもらえた。 夜通し運転して七倉到着。登山届を出したら指導員さんに「せっかくの硫黄尾根なのに雪が少なくて残念だね」、「先日の雨で増水しているから渡渉撤退もあるよ」とアドバイスされる。 ん?雪がないのに硫黄尾根登れるのか?渡渉できなかったら、まさかのアプローチ敗退? タクシー使って高瀬ダムへ。 「そだねー」という運転手さんに癒やされる。 高瀬ダムから歩き始める。確かに雪が少ない、そして暑い。 湯俣でソロの青年と出会う。なんと硫黄尾根登ろうとして水俣川で胸までの渡渉で撤退してきたそうな。いやー、硫黄尾根登る奇特なお方がここにも! と、お互いに変な目で見合って、ほっこりする。 いやいや、その前に硫黄尾根登れないのか? ならば湯俣川側から登った記録とあるからそちらから登ってみようと、青年をナンパして去年温泉堀りを楽しんだ河原から硫黄尾根を登ってみる事に。 激ヤブを1時間くらいつめると、尾根に出れた。ヤブのホコリがエグい。 雪ないし。 雪がついていたら快適であろう尾根や斜面も、ヤブとガレ場(浮岩だらけ)である。 これ、このまま進んでいいのか? 硫黄岳前衛峰P3の懸垂下降も浮石の落石だらけだし、登り返しも雪がないから脆い岩壁登りだし。稜線に雪なくて脆い岩の上を歩かなきゃだし。 何度か撤退を考えたけど、硫黄岳前方峰群をなんとか越えて、小次郎のコルまで進んだ。 明日は、雪がなかったら撤退する可能性高いけど、あんなところを引き返したくない。 2日目 ガレ場&ヤブを越えて硫黄岳へ。朝から背中にたくさん木やササの破片が入る。 うええ。 2時間もかかって、硫黄岳へ。なんと目の前には雪の硫黄台地が広がっているではありませんか! これは進むしかない。とテンションがあがる。 しかし、雷鳥沢へのガリー懸垂下降は雪がない。クライムダウンするかとの意見もあったけど、ガレ場下降の落石がやばすぎるのと、ルートが違って引返さなければならないときにザイルは必要だ。とにかく落石直線上にお互いに立たないように注意する。 みなでルートファインディングしながら、なんとか進む。 硫黄岳南峰を越え、赤岳前衛峰群に突入 ワンミスで数百メートルは落ちていきそうな切立った稜線である。まさにゴジラの背中! 本当は岩と雪の尾根歩きの予定だったのに、雪が少なすぎて触れれば落石するガレ場の恐怖のルートに。ナイフリッジなんてどこにもないじゃん泣。記録だと、右に巻いたり左に巻いたりして進むとあったけど、左側の千丈川側は雪がなく、ルートの可能性が全くない。 帰りたいけど、もう引返せない。進むしかない。でも下手に突っ込むと、引き返せなくなって、詰んでしまう。 尾根上の岩稜をフリーで登ってる仲間に、電子レンジサイズの岩がゴロゴロ落ちてきて、仲間に直撃しそうだった。 ああ恐ろしい。 とにかく、落ちないこと、落とさないこと。 ザイルは懸垂下降で積極的に使う。完全雪面の懸垂下降は一度もなく、ひたすら落石と一緒に下降するひどいガレ場ばかりで、落石に当たってザイルが千切れないかとにかく心配だった。 エグいトラバースも、触れば崩れる登攀もザイルは出せなかった。ハーケン打ったら岩が割れるし、スリングかけたら岩ごと落ちそうだし、ザイル出す方が危険そうだった。 ワンミスも許されない緊張の連続でエグい。 雪がついていたら、きっと楽しいのに。 赤岳前衛峰群を越えて、なんとか中山沢のコルへ。時間は14時半。赤岳主峰への登り返しは、左のガリーの雪がつながっていたけど、傾斜がきついので、朝一のガリガリの時に登りたくない。 「よし、雪が緩い今のうちに、主峰を抜けよう。そして、赤岳岩峰群の雪がある場所で泊まろう」 結局、弱点を見つけて赤岳主峰は、正面からガレ場クライミング経由で登れた。やったね。 ところがである。 赤岳主峰の先、最後の難所の赤岳岩峰群の稜線とコルには雪がないではないか。 テント張れないし、水も作れない。 こりゃ、今日中に抜けるしかない。 「とにかく、安全地帯の硫黄台地まで進もう」 もう、引き返せないし、立ち止まれない。 進むしかない。 なんかスイッチ入っちゃった。 おれ、覚醒。 普段なら絶対降りない崖のようなザレ場をダブルスアックスとアイゼンで下り、触れれば落ちる岩を抱え込むようにして越え、エグい斜面の雪面トラバースして、ひたすらトップで進み、トレースをつけていく。 この間、ノーザイル。 なんとか、硫黄台地にたどり着いた。 良かったー。 安堵感半端ない。 そこは、北鎌尾根を正面に眺める天国のようなテント場だった。歩いてきた硫黄尾根も見える。 すごいな、この、俺はやったぜ感。 3日目 西鎌尾根に抜ける。ちょっと緊張するところもあったけど、昨日までに比べたら、全然だ。 ここで、ソロの青年と別れる。誘ったけど、お腹いっぱいで槍ヶ岳にも寄らずに下るらしい。 そりゃそうだろう。 さて、ここからが今回の山行のスタートだ。 快晴無風、360°大パノラマの雪の北アルプス(2500m以上は積雪あり)、天国のような稜線を楽しみながら、のんびり歩いた。 (実は、疲れ果てて、のんびりでしか歩けない) 立ち止まっては、写真を撮り、違う角度で見える硫黄尾根を眺めてあそこはどうだったとか語る贅沢縦走。 (実は、疲れ果てて、理由をつけて立ち止まらずにはいられない) 真砂岳手前で、絶景のテント場を見つける。岩の上で、酒飲みながらあそこのバンドがエグかったとか、あそこは雪繋がってないから行かなくて良かったなどと語り合う極上の時間を過ごした。 なんて贅沢な時間なんだろう。 硫黄尾根に雪があるときにまた登ってみたいと思う。 あんなに怖い思いをしたのに、なんだこの中毒性は笑 4日目 本日も快晴無風 贅沢なパノラマを満喫しながら野口五郎岳を越え、烏帽子小屋に到着。 後は下るだけだ。名残惜しい。 長ーい、ブナ立尾根を下る。 やっぱり、なげーな、おい。 高瀬ダムが見えた。 旅が、おわる。 ダムには尾根で予約したタクシーが、待っている。なんと、「そだねー」の運転手さんだ! 無事に、帰ってきたなあ。 向こうのトンネル出口では、湯俣から戻ってきた家族連れがはしゃいでいた。小さな子供にとっては大冒険だったようで、「たっせいかーん、すげー!」って、叫んでた。 そだねー。 達成感すごいね。